リブラリウスと日々の記録(はてな版)

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【報告】「【悲報】amazonの書誌情報管理がマジクソな件について 」を使って授業をやってみた。(追記あり)

こんにちは。自分の授業実践についてWeb上で最初に取り上げることはあまりしていなかったのですが,はてなの記事を使って,授業をやってみたので,その記録は,まずははてなブログで公開するのが筋だと思いまして,ちょっと報告めいたものを書いてみました。つたない点はあるかと思いますし,丁寧に書き始めたら長文になってしまいましたが,どうぞご笑覧下さいませ。

1.はじめに

大学で司書課程を教えているときに悩むこととして,いかに新しい話題かつ学生さんが興味を持ってもらえる話を提示できるか,という問題があります。それを解決するために,あるいは現実逃避のために,図書館情報学関係のWebページ閲覧は欠かせないわけでありまして,Twitterとか,はてなブックマークで話題になった記事はとりあえず見ておくということをやっています。

(申し遅れましたが,今年度は私は「情報資源組織論」とか「情報資源組織演習」と言った授業を担当しておりまして,図書館における目録とか書誌の重要性とかなんかを学生さんに向かって話す役割を担当しています。)

さて昨年末に,ルーチンとして巡回をしておりましたら,次の記事が目にとまりました。


【悲報】amazonの書誌情報管理がマジクソな件について - 図書館学徒未満

この記事を書いている時点で,はてブ数が726usersになっている超有名記事です。

ちょうど情報資源組織論の授業で目録や書誌があることの大切さとかを教えている段階でしたので,新年にも授業の最初で取り上げるかーと以下のように,ブックマークをして,Twitterに流しました。

すると,ブログ作者の@liliput さまより,是非やって下さいとのコメントを頂戴しました。ありがとうございます。

2.授業前の準備

これで,授業をやらないわけにはいかなくなりましたので,早速授業で取り上げられるように準備を始めることにしました。

まず,授業の目的を設定します。今回は,学生さんが「目録や書誌が存在することによって,どのようなメリットがあるのが,図書館の目録や書誌はどのような性質を持っているかを理解する」という目的を設定しました。ちょうどこの授業回では「書誌ユーティリティー」の話題を取り上げることになっていたので,前半40分を「書誌ユーティリティー」の講義を行って,その後にこの記事を取り上げることにしました。

次に,どのような取り上げ方をするのかを考えます。

一番簡単なのは,授業で事例として取り上げて,学生さんに見ておいてねーとか,考えておいてねーという投げっぱなしにするやり方ですが,それだと@liliput さまに何らフィードバックが返らないことが想定された*1ので,一番最初にボツにしました。

フィードバックを何かしら返せるとすれば,コメントや意見を学生さんから表明してもらうことが考えられます。今回の授業は46名が参加していて,PC等の設備はない教室です。50分間の中で,個別に口頭で意見を表明してもらうには時間が足りません。また,グループでディスカッションをするという方法も考えられますが,この授業ではそのような場作りはできていなかったので*2,これも行わないことにします。そうすると,選択肢としては「コメントシートへの記入」が一番良さそうと考えました。

「コメントシートへの記入」を行う場合,一番簡単なのは,

  1. ブログ記事だけを印刷して配布
  2. その場で学生さんに時間をあげて黙読してもらう
  3. コメントシートにコメントを自由に書いてもらう
  4. 提出してもらって授業終わり
  5. 次の授業でフィードバック

というやり方です。シンプルでかつ,どこでも行われているので学生さんからすると方法に対して戸惑うことなく,教員の負担も最小限で済みます。ただし,この場合「学生さんが背景知識や専門用語について,全てまんべんなく押さえられている」のが前提となります。今回はKindleを使ったことがない学生さんや,Amazonを普段使っていない学生さんがいることが分かっていたので,ちょっと工夫することにしました。

また,@liliput さまの2つめのコメントにもあるように,このブログ記事については,多様な反応が出ているので,なるべくその感じを残せるような取り上げ方をするのが好ましいと思われます。

よって,授業では次の取り上げ方をすることを決めました。

  1. 事前にブログ記事とはてなブックマークのコメント*3を,学生さんの数だけ印刷しておく。
  2. 当日授業で配布し,教員の側から当該ブログの記事について,ブログ内の事例を実際のAmazonの画面なども提示しながら説明を行う。
  3. 説明が終わった後,はてなブックマークのコメントが配布されていることを学生さんに伝えて,それらのコメントも踏まえながら,自分の意見をコメントシートに表現してもらうようにする。
  4. なお,教員は事態の説明のみに徹して,自分の好みや主張などは極力排除しておく。
  5. コメントシートがかけたら,教壇に提出してもらってそこで授業終了。その場でコメントシートを見ながらコメントすることはしない。
  6. コメントはもちろんリストアップして,次回でフィードバック。

コメントシートには学生さんが,コメントしやすいよう

【ブログ記事へのコメント】(枠内に記述のこと。なお,この欄についてはそのままWeb掲載する可能性もあるので,そのつもりで記載すること(上記の学籍番号と氏名欄は絶対に掲載しない)書ききれない時は裏面を使っても可。)

という欄と

【その他コメント欄】(枠内に記述のこと。書ききれない時は裏面を使っても可。)

の両方を設けました。Web掲載の際には,氏名と学籍番号は掲載しないのはお約束ですが,仮に,Web掲載されたくないけれど,教員には伝えておきたいという題材が生じたときにも,書き分けができるような工夫をしています。

このように取り上げることを決めておき,個別に準備を行っておいた上で,1月13日の授業に臨みました。

3.当日の授業実践について

授業当日,新年最初のネタ掴みに失敗しながら,書誌ユーティリティーについて,講義を行った後,いよいよ当該の話題を取り上げ始めます。

まずは「授業でここまで書誌や目録の話をしてきました。今日はちょっと興味深い事例を見つけたので,取り上げたいと思います。」と切り出して,上記のブログ記事を見るように指示をします。そして,教室のスクリーンにAmazonの画面を出しながら,当該の商品についてプロジェクターを用いて表示させます。

ここで1つ問題が発生しました。上記ブログ記事で指摘されていた問題が,授業を行った1月13日の時点では対応されており,同じ問題を画面上では確認することができなかったのです。ここで,「画面上では修正されていますが,ブログが執筆された12月30日時点では,このような問題がありました」と説明を付け加えて,とりあえずそのまま話を進めていきます。おそらくはWeb上で騒がれたので,Amazonの側で対応が行われた模様です。

説明を一通り行った後,事前に決めておいたとおり,はてなブックマークのコメントも参照しながら,自分でコメントを書いてみて下さい。と指示をしました。だいぶ私の方は動揺していたようで,事前に決めた時間よりも10分ほど早く進行してしまっていました。

学生さんがコメントを書き始めてから,ブログ記事で提示された問題は本当に全て解決されたのかを,慌ててその場で探し始めました。学生さんがコメントを書き始めてから5分ほどで,下記の洋書版では,Kindle版とペーパーバックとハードカバーで挿絵の著者が異なっており,レビューも混在していることを確認できました。


Amazon.co.jp: Alice's Adventures in Wonderland and Through the Looking Glass: Lewis Carroll, Kriss Sison: 洋書

というわけで,コメントを書き始めていた学生さんにマイクで呼びかけ,「どうも日本版では対策されているようですけれども,英語版の方ではこのような状況がまだ続いている模様です」と伝えることにしました*4

その結果,いつもよりも10分以上早いスケジュールで学生さんたちからコメントシートがあつまり,授業が終わりました。

4.受講生からのコメント

その後,5〜6時間ほどかけて,全部のコメントをテキストデータで入力しました*5

さて,当人たちにはWebで紹介するよーと許諾を得ておりますので,コメントをここから全文引用…と思ったのですが,貼り付けてみたら7000文字近くあったので,その中から一部を抜粋して,ご紹介申しあげたいと思います。なお,手書きのコメントシートから,テキストデータに打ち込んだのは私ですので,誤字脱字は基本的にこのブログを書いた librarius_I が悪いと思っていただければと思います。また,下記のコメントについては,入力時及び掲載時に一定の編集を加えています。その点予めご容赦下さいませ。

  1. 自分も本のレビューを見たいときにAmazonを利用しますが,このような間違いやミスがあると利用者が混乱するので,早急に直して欲しいと思います。
  2. Amazonであまり本を買わないので,レビューも読まないし,何でもいいやと言うノリで買っているので,こんな間違いがあること自体に気づかなかった。
  3. 私もおそらく同じ状態になっているのを見たことがあります。何故「おそらく」なのかというと「間違いがないサイトだ」という固定観念で見ていたので,三回ほど元のページに戻ってクリックし直して,おかしいなと思いながら諦めたからです。大きなサイトであればあるほど,間違いが無いはずだと思ってしまうので, このような指摘を思うとなるほど!と思います。
  4. Amazon で本を購入したことはないが,たびたび利用するので,このような情報管理であることに驚いた。司書の授業の中で本の分類について学び,本と本を区別するために細かい分類がされているのだと知った。その中で,本を区別することは難しいと授業の中で痛感したが,明らかに別の本だと分かる本が区別されることな く,同じ本として扱われていることにとても驚いた。
  5. 自分の買いたい本をしっかり認識している状態なら良いのですが,探している本の情報が曖昧だと困惑すると思います。私はレビューを参考にしているので,こんな風にごちゃ混ぜの状態だとかなり不便ですね…。
  6. なるほどと思いました。司書の勉強をしている人から見たら,このタイトルは確かになぁと思いましたが,「ありえるだろうな」と思いました。まだまだ専門的なことは分からないし,Amazonのことはよく知っているわけではないので,何とも言えませんが,Amazon独自の書誌情報管理をしているのでしょうか。図書館とは違う方針なのではと思いました。
  7. Amazonは図書館ではないということを踏まえると,この状態はある程度仕方が無いのではと言う感想を持った。図書を扱うプロである図書館員がこの状況を作っていたならば叩かれるの は当たり前だけれど。もちろん,このままで良いという言うことではないが,譲歩は必要であると思う。Amazonは「多くの人に本を読んでもらいたい」ではなく,「多くの人に本を売りたい」を理念としているのだから,関連リンクを増やすための措置であると考えれば,ある意味諦めもつくなぁと。
  8. コメントを見て初めて気づいたが,電子版にはISBNのようなコードがついてないようなので,紙の方と同じ本とを対応できる仕 組みを作った方が混乱せずに済むと思った。
  9. 時をかける少女』のようにカバーイラストだけが違う場合の扱いなどは難しいと思った。
  10. 関連書籍のレビューがごちゃまぜに表示されるのはよろしくないと思うけれど,関連書籍の見つかりやすさという点では「便利」だと感じています。
  11. ネット上で騒がれたことでAmazonが訂正をしていることにも驚いた。根本的には直っていなくても,こうした指摘がAmazonに影響している。これがきっかけとなって,書誌情報管理のシステム自体が見直されれば良いなと思った。
  12. 自分も書誌情報がいいかげんなことには気づいていなかったが,レビューを見て「???」と思うことは何度もあった。自分が求める本と同じものを見つけるのは困難だと感じた。「どこまでを“同じ本”とするのか」は図書館でも実際の書店やアマゾンでも判断がとても難しいと思う。難しいと思うが,図書を扱う業界ではっきりとした共通の基準を作成しなければこの問題は解決しないのではな いか。
  13. この仕様,記事にされたことで問題視されたけれど,元々ユーザーはこのごちゃごちゃ感を分かりながら使っていたのだと思う。ただ,翻訳者やカバー,挿絵を描いた人間の存在が無視されていることは見過ごせない。
  14.  Amazonで本の購入をしたことがなかったので,このような問題があると知り,大変驚きました。自分でよく確認することが大切だと思いました。実際に書店に行き手にとって購入するか否かを確認することが大切だと思います。しかし,レビューはネットで購入する際に大変便利な判断材料だと思うので,正しく表示されれば良いと思いました。
  15. Amazonは便利ですし,出かけなくて良いし,人とも会わないで済むので 「面倒だからAmazonで」という人はとてもたくさんいると思いました。今回のような不祥事が発生するのはいかがなものかと思いますが,細かい違いを気にしない人もいるので事実だと思いました。また,Amazonは図書館と違って,本のみを扱っているわけでも,本の専門家がいるわけでも無いと思うので, アリスのような極端な例は注意すべきですが,細かい違いについては,Amazonを一方的に責めて良いのだろうかと思いました。ネットで騒がれたから直すというと言うアマゾンの姿勢は好きではありません。日本で話題になって,間違いが確認できたら,外国のもの(アメリカのアリスの例)を修正すべきだと思い ました。
  16. Amazonさんは利用する機会が多く便利だと思っているが,こういう一面も知り,ある程度探すにしても,もとから知識を持ってから探すべきだと感じた。
  17. 私は海外の本を読むときに訳の文体を気にするので,別の訳者の本を同じ本を同じ本として表示されたら違うのに!とイラッとすると思う。
  18. 私自身,課題で複数の本が出るとAmazonでまず本のレビューから,どの本を読むかを調べるので,レビューが混じっていたら,読みたい本と全く違うものだから,とても迷惑な話だと思った。
  19. こういった問題が世間で騒がれはじめて,ようやく一般の方は「これが間違った情報なのだ」と理解できるのだと思いました。専門的知識の無い人にとっては,それが間違った情報で会社側が管理を怠っているとは思わず,ただ見たままの情報を受け入れるだけで終わってしまうのでは無いかと思います。
  20. Amazonがやっていることは雑だと思いますが,コメントにあるとおり,Amazonは一巨大通販サイトであって,書誌ルールについては専門外であるように思います。

以上です。他にも倍近いコメントがあるのですが,ここでは紹介できませんでした。ごめんなさい。

5.気がついたことと反省

さて,出てきたコメントを元にしながら,少し気がついたことをまとめてみます*6コメントの特徴として,

  • Amazonに対して肯定的,批判的なコメントの両方が出ている。
  • 図書館の話題に引きつけて考えているコメントがある。

以上,2点が指摘できます。双方の立場からのコメントが出ると言うことは,賛否両論あるかと思いますが,本授業の意図としては,意見の多様性を示せたということで成功として良いかと思います。図書館の話題に引きつけて考えることは,こちらから指示はしていませんでしたが,何人かが行っていたので,これは良い傾向として指摘しておきたいと思います*7

 ただ,思ったよりもAmazonを使っていない学生さんが多かったためか,ブログに書かれている状況がよく分からないと言うコメントも数件見られました。これは,私の説明である程度カバーできることなので,今後気をつけたいと思います。

それから,コメントからは外れますが,当日までに問題が改修されていたのを授業実施前に気づけなかったのは,完全に授業者側の責任です。アドリブで対応することもできますが,好ましいとは決して言えませんので,今後十分に注意したいと思います。

6.謝辞

今回,記事の使用を快諾して下さった,@liliput さま,掲載されるかもと申しあげたのにもかかわらず,きちんと自分の意見を表明して下さった学生さんに深く感謝申しあげます。

ということで,報告を終わります。最後までご覧頂き,有り難うございました。

(2015/01/19 16:30 追記)

本ブログへのコメント,Twitterはてなブックマークでのコメントでの反応,まことに有り難うございます。補足が必要と思われるものについて,この場でコメント返しさせて頂きます。

4番の方、本に限らず、ネットに限らず、なにかをきちんと同定して区別することは以外と難しいが、検索が容易にできるウェブでは特に重要。識別子の重要性になんとなく気がついている8番の方もすばらしい。9番の方や12番の方が言っているイラスト等で区別できるようにというのは新しい目録規則の目指すところと、同じ視点にあるということで、組織化が身に付いていると思いました。ありがとうございます。

 ありがとうございます。ちょうど明日,最終回の授業がございますので,授業の最初の時間に反応があったことを伝えたいと思います。授業の中で,どこまで伝えられたか分かりませんが,教員の立場としてはただただ嬉しい限りです。

コメントが問題ない/悪いの判断に分かれていて,なぜそうなったのかや,自分だったらどう設計するかに関する踏み込んだ考察が見られないのが気になった

原因としては,この授業が学部2年生が主たる受講生であったことから,そういった発想に至るまでに必要と思われる授業(例えば図書館情報技術論)を受講していないこと,あるいは私の紹介の仕方がそういった発想が出づらい紹介をしてしまっていること,それ以外の要因が原因として考えられます。おそらく2番目の影響が強いと思われますので,もう少し細かく見直していきたいと思います。なお,編集前のコメントでもご指摘にある“踏み込んだ考察”は出ておりませんでした。

随時,頂いたコメントには時間を見つけて追記させて頂きます。

*1:実際,この言葉を言うときには「最悪の場合,誰も見ておかなくても考えなくても良い」という覚悟をします…。

*2:専門用語や概念を多く扱うため,どうしても一斉授業のスタイルを取らざるを得ません。

*3:全部だと多すぎるので,意見の多様性を反映できるような形で適宜カットしました。

*4:授業実践としてはこのようなトラブルは予め対応方法を考えておくか,事前に紹介するページを巡回して同じ状況が再現できるかを確認しておくべきだったと反省しています。

*5:こちらについては次回の授業で全員に配布する予定です。

*6:考察ではありません。考察だともう少し厳密性が求められると思います。

*7:なお,こちらから指示をしないで出てくると言うことが重要だと思いますので,同様の事例を行うときにも敢えて今後も指示は行わないと思います。