リブラリウスと日々の記録(はてな版)

研究とかイベント運営とかの記録を淡々と。

【イベントレポ】九州大学ライブラリーサイエンス専攻設置記念シンポジウム「ライブラリーを科学する」(2)

(この記事は「ライブラリーを科学する」(1)からの続きです。)

講演1「日本におけるアーカイブズの役割」 国立公文書館長 高山正也先生

  • アーカイブの世界に入って5年しかない,7年間の図書館の実務経験,30年間慶應義塾大学で教えてきた。
  • 長年やっていた図書館とアーカイブズを比較することで話を進めていきたい。
  • 設置のために関係教職員がかなり苦労した。この苦労した理由を考えてほしい。
  • 我が国の社会全体で,図書館は正当に評価されていないのではないか。不当に低い評価なのではないか。なぜこんなに低い評価なのか。
    • 学問の歴史が浅いという意見はあるが,日本の大学では半世紀以上の歴史がある。図書館学の講座そのものが帝国大学で講義されはじめから一世紀が立っているが・・・。
    • 他の学問分野に従属しているという意見もある。〜学部資料室が力を持つ構造。ある大学は総合図書館が力を持っておらず,学部図書室の方が力を持っている
    • サービスのあり方はもう一つの選択肢。ユーザーからみてどれだけ付加価値をつけたサービスが提供できるか。単独の適合文献を提供するだけのサービスで高度に知的な専門職ということが今後も主張できるか。
  • いわゆる実証的な専門職は日本では認められにくい。ものを提供するのではなく,ユーザーが求めるサービス,情報をどうやって提供するのか。
九州大学における「ライブラリー・サイエンス」の構成
  • ライブラリーサイエンスという分野をどうとらえるか。
    • 図書館情報学書誌学<本そのものについて研究する学問>・ドキュメンテーションサブジェクトライブラリアンであることが求められる学問>・・・etc)およびアーカイブズ学(記録管理学<レコードマネジメント>,古文書学<伝統的なアーカイブズ論>・・・etc)
  • 伝統的な学問だけではなく,新しいところにも力点が置かれているところが特徴だと思う。
日本におけるアーカイブズの役割
  • マイナーディシプリンからの脱却
  • 他学問分野の従属からの脱却
  • 既存の図書館分野の将来性はない。
    • 公共図書館司書のマーケットはすでにない。
    • 大学図書館も非常な競争状態。新しい人はなかなか入っていけない。
  • では公文書館といっても,日本全国の数を考えた場合にいくつあるのか。47都道府県のうち,17のところでは公文書館を持っていない。国全体では57しかアーカイブズはない。日本の公立図書館は8〜9人という職員数,公文書館は1人か2人である。そんなところに新卒者のマーケットを期待することは無理。そこで,記録管理学がでてくる。公立の機関だけでなく,一般的なビジネスの分野を取り込もうとするべきである。ふつうの会社には文書管理が必ずある。
  • 記録管理学(Records Management)の確立。本格的に取り組んでいる大学は一つもない。色々な素養知識,教養経験を持った人でないとできない。
  • 九州大学の新専攻の目標:九大への期待
    • 記録管理学のルーツ校となる(慶應義塾大学図書館情報学のルーツ校であるように)
    • 東アジアの記録管理学の拠点校(記録管理論の中心は西欧でも北米でもなく,オーストラリアのモラシュ大学が中心である。ISOもオーストラリアの記録管理がベースである。来年11月ICAの東アジア部会を東京で開くが,西太平洋の分科会が教育関連マニュアルを作っている。記録管理論は西太平洋が世界の中心になっている。福岡の地は地理的にも良い位置にある)
図書館と文書館の類似性
  • 蓄積・検索型の情報サービス
    • 人類の知識・経験の累積拠点
    • 情報の管理は記録媒体の管理で行う
    • 記録媒体: 原本と複製物
    • 管理: 受入・収集,組織化,提供・利用保存
    • 歴史的親近性: 文化の進展で分化(アーカイブズとライブラリーが分かれたのはグーテンベルク以降である。)
図書館と文書館の特性
  • 図書館(Library)
    • 複製物(出版物)
    • 組織外作成(公開前提)
    • 図書館サービス←→検閲(言論の自由
  • 文書館(Archives)
    • 原本(業務文書)
    • 組織内作成(非公開前提)
    • 公文書の利用(請求権:公文書管理法に基づく)←→個人情報保護
図書館と文書館の違い
  • 図書館は自治体の民度によって蔵書が左右される。単に自分の読みたい本が読めればよいとしてリクエストで収集していって良いのか。公的な財源を私的な目的に使ってはいけないという自主規制がかかればよいが…
  • 図書館は出版物の網羅的な収集,文書館は文書類の選択的収集
実証科学としての図書館情報学とアーカイブズ学
  • 実証的科学とは:
    • 実際の確かな「証拠」に基づき研究をする科学
      • 文書・記録,組織を扱う→社会科学
  • 文書・記録:書誌学,記録管理学
    • この中になにが書いてあるのか。サブジェクトライブラリアンの必要性
  • 組織:図書館情報学,アーカイブズ学,情報史
    • 図書館という組織であったり,アーカイブズ学については,九州大学の場合は組織そのもの
  • 科学:仮説・実験・理論形成=Science

(本来は自然科学こそScience,社会科学=Studies)

知識創造の過程
  • 個人の中で様々な思索や体験がある→集団で表現議論する→社会でまとまって体系化される→集団で制度化し実行する。
野中幾次郎(4つの知識変換モードSECIモデル)
  • これができる場として,アーカイブズや図書館が存在している。
情報管理を高度化するプロセス
図書館・文書館の役割
  • アクセスという問題を考える場合,限定的なアクセスの段階にとどまってはいないか。
    • 指示的アクセス→目録・書誌
    • 物的アクセス

この2つにとどまっているが,

    • 言語的アクセス(翻字・翻訳)
    • 概念的アクセス(解題・文献展望)

を提示できるようになることが必要なのでは。

情報管理の高度化プロセスとして
  • 図書館(各図書館論)が最初の段階。その次にアーカイブズ(記録管理学,アーカイブズ学)があって,情報分析(情報史研究=京都大学,情報分析(インテリジェンス)研究)がある。他は全て他大学でやられているので,九州大学は情報分析研究のルーツとなって欲しいと思う。
4.アーカイブズの内容構成
文書管理から記録管理へ
  • 単なるファイリングから,活用までを含んだ分野
  • 政治学,歴史学,情報技術,経営学との関わり
評価選別の理論
  • 内容主義
  • 証拠主義
  • マクロ主義
  • 記録連続体論
記録連続体
  • 文書を作る組織自体の性質を学ぼうとするアプローチ
アーカイブズと記録管理は役立つのか?
  • スコットランドのレポートに寄れば,所属する組織,社会にも貢献できるという資料がでている。是非安心して入学してほしい。
ディジタル・アーカイズ
  • 様々なアクセスの改善
志願者想定
  • 学部で何かを専攻して司書資格を取った人を考えている。

講演2「図書館情報学の未来〜九州大学の新専攻に期待する〜」 筑波大学大学院図書館情報メディア研究科長 植松貞夫先生*1

  • こうした新たな大学院の出現は,研究領域の拡大であり,同業他社として歓迎したい。
  • しかし,マイナーディシプリンとかマーケットが狭いとか,他分野への従属状況にあるのも事実である。
  • 私たちの知識は図書館情報学に関しては,世界最大規模の組織である。既存の図書館情報学を研究している組織である。
  • これから図書館情報学がどういう方向に進むか,我々が考えていることを話したい。
  • 後日リポジトリでプリントは公開されるのでそちらをみていただきたい。
「図書館学→図書館情報学→」
  • 図書館学という言葉が世の中にでたのは,1808年マルティン・シュレッガーが「図書館学」について定義を打ち出してから。図書館が素早く本を提供するための学問として定義した。
  • 同時期にフランスやイギリスでは,ライブラリーエコノミーとして図書館が素早く本を提供するための総体を作ってきた。
  • 1887年にはメルビル・デューイがコロンビア大学にSchool of Library Economyを作った。大学で教えるべきとされたのは1900年代になってから。
  • 1923年にカーネギー財団の報告で,司書職の養成は学士号を入学要件にするように提唱される。
  • 日本では,1949年に文部省に図書館職員養成所が作られる。その後,慶應のライブラリースクール,日本図書館学会の設立へと続く。
  • 図書館学は現実の問題から発し,その成果を生かす,応用科学,実践の科学である。
  • 1963年以降,図書館に対するコンピュータ業務が導入される。それまで一冊の本単位だったのが,文章単位と細かくするようなドキュメンテーションの概念が入ってくる。
  • アメリカでは1964年にピッツバーグ大学でGraduate School of Library and Information Scienceに改組。
  • 日本では図書館短期大学が1964年に開学した。
  • 1970年には日本では「情報元年」といわれる。
  • 1971年図書館短期大学に文献情報学科が開設,1972年図書館情報大学開学
  • 1980年以降,アメリカでは「図書館情報学」を用いた名称に改組・改名した。
  • 1990年からデジタル化技術やインターネットが広まる。すべての学問領域で情報が基盤要素になる。
  • 日本では1993年に図書館情報大学では知識情報論講座を設置。「知識資源の流通と新しい知識の創造にかかる科学へと発展」
  • この時期,図書館情報学は図書館と情報学の並列関係なのか,fusionの関係なのかなど教員の間で盛んに議論していた。
  • 2000年には国立情報学研究所が設立,これにあわせて図書館情報大学も大学院情報メディア研究科に改組(区分博士課程)
  • 2004年には情報学群設置
筑波大学での)情報メディア学とは

以下の3つの融合

  • 図書館情報学
  • 情報科学
  • 計算機科学
    • 人文社会系,生命科学心理学,理工学系,芸術・デザイン(表現・デザイン・コミュニケーション)の4つの分野への広がり
筑波大学での)4つの教育研究分野
  • 情報メディア社会
  • 情報メディアマネージメント
  • 情報メディアシステム
  • 情報メディア開発
知的コミュニティ基盤センター
  • 研究科のリサーチフロント:高度情報ネットワーク社会における情報基盤に関する研究
連携機関
図書館流通センター図書館経営寄付講座
4種の教育プログラム

つくば

  • フルタイムプログラム
  • 英語プログラム
    • 英語でのみ講義・演習・研究指導

東京サテライト(平日夜および土曜日)

  • 図書館情報学キャリアアッププログラム
    • 図書館職員等現職者限定
  • 図書館経営管理コース
    • 履修証明プログラム(科目等履修生型)
想定する学生層
  • 図書館情報学を学んだ学生および他の領域を学んだ学生,現職者,留学生(九州大学と同様のところもある。)
  • デジタル情報ネットワークの進展に伴って,図書館を取り巻く環境は大きく変化しているので,様々な領域で対応できるようにしている。
図書館は絶滅危惧種
  • 図書館は知識伝達・再生の場→媒体が紙の図書→そのための場所=「図書」館がつくられてきた→電子媒体へ移行→2000年には「利用者は図書館に行く必要はもはやなくなっている」(F. W. ランカスター,1982年,『紙からエレクトロニクスへ 図書館・本の行方』)
  • (2000年以降)STM(科学・工学・医学)領域の学術雑誌の多くは電子ジャーナル化され,利用者は大学図書館に行く必要はなくなった。
  • 「20年〜30年先には出版されるものの70%以上のものは電子携帯のものとなり」(長尾真「電子図書館時代へ向けての大規模図書館の未来像」)
  • Google book scan など電子書籍の動き
養成すべき大学図書館職員

大学図書館の整備について(審議のまとめ)」20101203

  1. 学術流通に詳しく学術情報基盤を構築できるライブラリアン
  2. 特定の主題分野のコレクション構築を行うとともに,その主題に関わる学習・研究を行う利用者に対してサービスを行うライブラリアン
  3. 教員や学生とコミュニケーションをとりながら教育課程の企画・実施に関わるライブラリアン
  4. 研究者として図書館情報学の発展を担うライブラリアン
  5. インターネット等の技術を駆使して情報を提供するライブラリアン*2
公共図書館職員

『これからの図書館像--地域を支える情報拠点を目指して』

  • 課題解決支援型図書館
    • 図書館長は利用者の視点に立った経営方針の策定など6つの項目についてリーダーシップを発揮する。
    • 図書館職員にはリカレント教育,専門主題情報担当者の教育が求められている。
拡充を計画している方向(1)人材養成
  • アーキビスト」養成プログラムの構築
  • 多様で高度な情報メディアコンテンツの創成,発信にかかる専門職業人・研究者を育成するプログラムの構築
  • 図書館を経営できる図書館員養成プログラム(現職者のキャリアアッププログラム,図書館経営管理コース:履修証明プログラム)
(2)教育研究
  • 現在の図書館を越えた新しい図書館サービス基盤の構築に向けた教育研究
  • 図書館・ミュージアム・文書館等と教育コミュニティとの連携拠点
  • アジア太平洋地域,欧米の大学との連携強化
九州大学のライブラリーサイエンス専攻
  • 中では課題解決型の教育,Project Team Learningが非常に人材育成にとって重要なプロセスだろうと思う。
  • 様々な人が様々な視点から1人の学生を指導することは,幅広い主題の領域の資料を扱う上では重要だと思われる。
  • 九州大学は研究科を越えて教員が学生を指導するとあるので注目していきたいと思う。
  • こちらのライブラリーサイエンス専攻と連携し,この領域が拡充していくことで,マイナーディシプリンや他分野の従属という状況から脱却したいと考えている。
  • 現在の図書館を越えたところの図書館サービス基盤をともに考えていきたいと思っている。

(3)に続きます。

*1:スライドを中心とした記述にします。

*2:打ち込んでいる間にスライドが切り替わってしまったので,間違いがあればご指摘下さい。