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【参加ログ】「司書教諭資格付与科目実践共有の会」(第1回「学校経営と学校図書館」)

どうも。今井です。

大学で教えるようになったのは,博士課程1年目(2005年)からだったかと思うので,かれこれ10年(実際は飛び石状態なので,8〜9年目くらいだと思いますが)は関わっています。司書教諭科目に初めて関わったのは,博士課程3年目からですから,もう8年は教えています。といっても,毎年のようにホットトピックが移り変わるような分野を扱っている以上,ある年に蓄積をしてその内容で2〜3年教えると言うよりは毎年のように部分改訂を繰り返しているので,蓄積らしい蓄積はほとんどありませんが。

さて,そろそろ一週間経ってしまいますので,中村百合子先生の下記のフォーラム「司書教諭資格付与科目実践共有の会」の参加ログを残しておこうと思います。

d.hatena.ne.jp

1.はじめに

この会は,簡単にいってしまうと,大学で司書教諭資格付与科目を担当している担当者の実践を共有するフォーラムです。私も9月に実施される「情報メディアの活用」で発表を担当する予定となっています。

最近本務に関わるイベントには出不精となっていたのですが,流石に自分が今後担当する会の雰囲気はきちんと知っておかなければ…と思い,割と消極的な参加動機で会場である立教大学に向かった次第です。

なお,会の記録は,上記の中村先生のブログおよび後日公開予定の記録に譲りたいと思いますが,ここでは,今井が個人的に記録しておきたい範囲で,今井自身のメモに基づいて記録を載せておきます。あくまでも部分的なのでどうぞご容赦を。

2.会のメモ

当日のプログラムは以下の通りです(敬称略)。

  1. 導入:「司書教諭養成の戦後史」
  2. 実践発表:「学校経営と学校図書館の教育実践」(足立正治、中村百合子)
  3. ディスカッション

まず会の最初,立教大学の中村百合子先生からこの会の目的について説明がありました。

  • 教育実践の共有については,関西では盛んに行われてきた。
  • 関西に勤めていたときにはそのような機会を経験していた。関西では全部の教育実践が記録に残されていた訳ではないが,関東は教育実践の共有自体がそれほど行われていない。
  • 教育実践の内容として,何を行ってきて何が足りないのかを明らかにしつつ,単位の話,カリキュラムの話だけに留まらず,内容そのものの高度化を図りたい。

後の中村先生の発表でも指摘がありましたが,単位の実質化ということも念頭にあるようでした。

これらの趣旨説明が行われた後,実際の教育実践を取り上げる前に,司書教諭の教育についての戦後史について,認識の確認が行われました。これ自体でも3時間のフォーラムができるほどの内容でしたが,今井が必要だと思ったポイントは下記の点です。

  • 図書館法成立に伴う,「総合図書館法」構想から館種ごとの法律,制度への転換
  • 実践と学の乖離
  • 講習が優先され,大学での講義は講習修了相当とするねじれ
  • 専門課程での養成ではなく,講習もしくは課程での認定とすることの問題点
  • 教員養成の高度化の議論から司書教諭は取り残されているのでは。
     →司書教諭資格そのものは教員免許更新制の対象外
     →教職の高度化(例えば大学院への移行)の議論の中にも存在が見えない。

それぞれに議論が必要な点ではありますが,問題の存在を認識した上での実践発表ということが主眼にある会だと思いますし,この問題点についてはミネルヴァ書房から刊行されている下記の資料とも重なる点が多いので,ぜひこちらをご参照頂ければと思います。

www.minervashobo.co.jp

会はその後,足立正治先生と中村百合子先生から科目「学校経営と学校図書館」に関して,それぞれ実践発表が行われ,最後に質疑応答を行う形で展開されました。

まず足立先生の発表は,授業の目的,使用テキストを説明しつつ,そのテキストをどのように再構成したか,授業方法はどのような方法を採ったかを説明した後に,それぞれのエピソードに触れる形で展開されました。今井が印象に残ったのは下記の点です。

  • 授業方法としては下記の方法を採った。
     ★情報提供
      —解説,資料配付,ビデオ(CD),参考図書や調査課題の提示など
     ★グループ・ディスカッションと発表
     ★心がけたこと
      —受講者の意識や理解に応じた導入と励まし
      —具体的な実践事例の紹介
      —適切な探究課題の提示とサポート:講習開始前の事前課題の提示
      —受講者との相互のフィードバック(振り返りシートの活用)
       *単純な取り組みであるが,振り返りシートは重要である。
  • 振り返りシートは講習の期間の通勤時間で目を通し,毎日フィードバックした。その際には事実認識の誤りを訂正し,さらに詳しく解説する方式で行った。
  • 4日間の短期集中型の授業と15回に分割された授業の違い
     —集中型の講義では,短期間に多くの情報量を提供するのには無理がある。
     —集中型の講習では,予習,復習(振り返り),課題など,授業外での学習に時間をかけて熟考を促すことが出来ない。
  • 講習における一日の時間配分
     ・午前中の前半は,前日の「振り返り」に対するフィードバックと発展的な解説を行う。
      ★フィードバック自体が「学び」につながる。前日までの内容はあくまでも導入である。
     ・後半は,新たな項目の解説を行う。
     ・午後は,ビデオ試聴,調査課題,各種資料やテーマについてグループ・ディスカッションと発表を行う。
      ★最後の30分は「振り返り」にあてる。
  • 講習を実践に活かすための課題
     ★理想と現実のギャップをどう埋めるか
     ★学校図書館が学校教育において欠くことの出来ない基礎的な設備
      ーあった方がよい,よりよい教育が出来るというのは欠くことの出来ないというニュアンスとはだいぶ異なる
     ★教職員間の共同の促進

次に,中村先生からの発表が行われました。大学内の科目の位置づけなど,公式の記録を待った方が良いと思われる点もありますので,ここでは方法と評価の所だけを取り上げます。

  • 授業の基本方針
    *単位の実質化をめざし,単位計算の基準を厳格に考える。
     ・授業へ出席するだけで,配付資料をもらうだけで満足しないこと。
     ・予習復習,毎週4時間かかってもおかしいと思わないことを伝えている。
    *学生が主体的に学ぶように教育方法を工夫
     ・事前リーディング課題→授業時にリアクションペーパーを執筆→4名程度のグループで回覧,ディスカッションやグループワークが主となる。
     ・講師の話は長くても半分程度に留める。
  • 成績評価の方法は,教育方法を反映して決定
     —授業への出席と積極的参加
      →学生への発言や態度,ファイリングチェック
      *授業の途中で2人同士でチェックさせる
     —リーディング課題(30%)
      →リアクションペーパーによる評価
     —グループ発表(30%)
      →グループワーク
     —最終テスト(30%)
      →持ち込み不可,重要事項の暗記の確認25%,小さな論述問題25%,大きな論述問題50%で構成。
  • 現在担当している学生は意欲が高く,最後は自分を批判してくるレベルまで到達する。

お二人の発表の後での質疑応答では,個人的に気になっていたので「経営」の定義について私から質問しました。他にも評価におけるルーブリックの存在など色々刺激的な話が出ていました。質問するだけできちんと記録できていないので,こちらを公式の記録をお待ち下さい。

d.hatena.ne.jp

ただ,質疑応答の中で紹介されたダイアン・ラヴィッチの書籍については,未読どころか,存在を確認することすらできていませんでした。ラヴィッチはD論でも触れた人物でして,ちょうど質疑応答で紹介されたのとは逆の論説で引いています。最近になってまた転回したのか…と驚いています。

www.amazon.co.jp

3.感想

私としては大変にエキサイティングな時間でした。もちろん大学内部でのFD活動で切磋琢磨する機会はありますが,ここまで内容が司書教諭にチューニングされたものはほぼ初めてでしたし,自分の事例を公開することはあっても,他の方の指導実践を伺うのは久しぶりだったからということもあります。

学生さんの前に立つ以上,最高の教育をしている(という振りをできる位準備する)ようにはしていますが,どうしても評価軸が学生さんの授業アンケートなどに限られてしまうので,こうして同業者の方の実践を見ながら相対化できる機会は関東であってももっと広がる必要性を強く感じています。

特に今回は,中村先生が学生さんに対して厳しく接していること,それだけのクリオティをきちんと求めていて,評価する覚悟を決めていることが非常に強く印象に残りました。私は,モチベーションを上げて,どんな入り口から入ってきても何とか興味を持ってもらって,最低限の所までは連れていくというアプローチです*1

ただ教育では,どちらが必ず正しいという話ではないと思います。こうして違うアプローチを学び,少しずつ修正を加えていくことが一番だと思います*2

4.次回スケジュール

以下,第2回目のスケジュールを再掲します。

日時:2016年5月29日(日)13時15分~15時50分
場所:立教大学池袋キャンパス1号館1階1104教室
内容:「学校図書館メディアの構成」
発表者:青山比呂乃さん、中山美由紀さん、吉田右子さん
(参照:http://d.hatena.ne.jp/to-yurikon/20160307/1457324476

今確認したら,日本図書館情報学会の2016年春季研究集会の翌日でした。会場校担当者としては,抜け殻になっている可能性が高いのですが,何としても伺いたいと思います。(宣伝ですが,発表申込,参加申込ともに開始しております。奮ってご参加下さいませ。)

2016年春季研究集会 日本図書館情報学会: Japan Society of Library and Information Science

ではでは。

*1:もちろん甘く接して簡単な題材しか教えないと言う意味ではなく,内容の精選や教え方の工夫はするけれど題材自体のレベルは下げないようにしています。

*2:この会に出たことで,新学期のある科目は修正を実際に加えることができました。