リブラリウスと日々の記録(はてな版)

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【イベントレポ】九州大学ライブラリーサイエンス専攻設置記念シンポジウム「ライブラリーを科学する」(3)

(この記事は「ライブラリーを科学する」(2)からの続きです。)

「専攻設置にあたって」九州大学総長 有川節夫先生

  • 1998年から突然図書館長をやることになった。最初の任期は3年で,結局6年つとめた。一時期図書館長から離れていたが,その後,館長に戻った。離れていたときも話を聞きにくるような状況だったのでずっと館長をやっている感じである。
  • これをふつうの図書館学として考えないでほしい。これは統合新領域学府の1つであり,様々な領域のfusionで新しい領域を作っている。
  • 全然違った発想で行っていることに注意してほしい。同じ言葉を使う理由,図書館情報学は重要だと私は思っている。図書館長をやるときになったときも半端なことはしなかった。しっかり勉強し大学図書館がどういう状況にあって,どんな課題があるのか勉強した上で臨んだ。
  • 就任する時に「図書館情報」という冊子に明確にビジョンを示している。大学図書館研究,国立大学図書館協議会の50回大会,丸善ライブラリーニュースなど明確に外に考え方を出しながらやってきた。
  • 大学図書館をみたときに,それまでは大学には図書館を置かなければならないことになっていた。大学の中の中枢の機関である。
  • 当時本学が抱えていた問題は,列挙して組織的に解決していった。財政的な問題も解決した。
  • 折から大学改革の流れがあり,そういった中で1つのフレーズを考えた。国大図協で提示した「図書館が変われば大学が変わる」というフレーズ。大学の改革を迫られているのであれば,大学図書館は変わらなければならないという問題意識。まずは図書館から変わらなくてはと考えていた。
  • 少なくとも図書館は大きく変わっており,誰にとっても魅力ある施設になったと思っている。
  • そういったことを考えていくと,大学図書館基準にもかかれていることを実現しなければいけない。そうするためには,教育システムやプログラムを確立しなければならない。研究で海外に赴くときも大学図書館をみるようにした。ヨーク大学で「Ph.Dを持っている職員は1人しかいません」といわれたことが印象深い。我が国はどうか。
  • これからはますます,教育に直接関わらなくてはならない。研究については,人文社会系の研究は歴史に基づいて行われるが,文献を整理したり体系づけるということで時間がだいぶ割かれてれていたのではないか。そこにサブジェクトライブラリアンがいれば劇的に研究が進むのではないか。
  • ネットワーク上の情報資源も紙の情報も区別は付かないが,きわめて重要な情報が含まれている。図書館で目録カードを使って事実を探すことから,今この領域はどうなっているかを調べることが必要とされてきている時代である。件数がやたら多い情報から必要な情報をdiscoveryするためにはどうしたらよいか。
  • 大学図書館員が中間のフィールドにたって,ユーザーの問題にアドバイスしていく。こうした状況は大学図書館だけだと思っていたが,公共図書館でもライブラリアンがユーザーと一緒になって課題解決を行うようなことがでてきた。
  • 「情報」というとすでにそうした分野を取り組む専攻があるではないかという意見がある。図書館と情報とどう関わるか。情報の彼らはシステムをうまく作ってもらって使ってもらう人たち,ライブラリーサイエンスについてはコンテンツそのものを扱う人たちである。データベースのシステムを作るのが情報,中身そのものを扱うのはライブラリーサイエンスである。
  • こうしたことをまともにやっている大学はないと思う。きわめて新しい学問領域である。様々な人たちが関係しなければいけない。Googleがやっているようなことよりも遙かに高度なことを行う。
  • 図書館というのが,絶滅危惧種ではなくて,むしろ私たちは新しく学問に取り組めるようになったと考えている。だから私たちはカタカナで表現している。
  • 今月,大学にあって「求められる図書館像」のまとめが出される。
  • 古いようだけれども,新しい世界を作っていきたい。
パネルディスカッション

登壇者に加え,慶應義塾大学の倉田敬子先生,九州大学記録資料館長の三輪宗弘先生が加わる。司会進行は医学研究員教授の吉田素文先生。
目的

  • 2011年4月1日に九州大学統合新領域学府に開設される「ライブラリーサイエンス専攻」の今後の発展のために,設置計画の中で重点を置くべきところ,補うべきところに検討したい。
  • パネラーだけにとどまらず,フロアからも活発なご意見をいただきたい。
高山先生
  • 有川総長の話にもあるように,ライブラリーサイエンスとカタカナとなってることについては,学の基盤を指向していると考える。情報化社会となっている,そこにライブラリーとかアーカイブズのようなものが折に触れて目的を達成するための手段として使われるようになった。その社会の築き上げる学問領域がライブラリーサイエンスである。
三輪先生
  • 写真集の例示。あるアメリカ陸軍に関する写真集には請求番号が書かれておらず,チェックできない状況になっている。日本はなぜこうなのか。
  • 私は米国国立公文書館に訪問するようになってから初めてアーキビストという言葉を聞いた。
    • インテリジェンス研究の大切さ。
    • ある資料に対して,所在源を示すことの大切さ
植松先生
    • 知識を大切にしようと私たちは考えている。知識基盤社会に対して,人々の暮らしの中に入っていくためには,誰もが公平に情報を使えることが重要である。情報へのアクセスを提供することが重要である。そうすることで新たな知識を再生産する。こうした循環は我々も考えているところである。
    • デジタル化する技術の方向は素人がアクセスしやすい方向へ向かっている。図書館の仲介者がどこまで関与することが望ましいのか,公平に情報を使えるということはどういうことか。
    • 図書館長やサブジェクトライブラリアンの重要性
倉田先生
    • 情報メディアや研究者間のコミュニケーションを研究してきた。記録管理学にしても,図書館情報学でも,アーカイブ学で似ている。横で切ると共通要素があるのではないか。それはメディアである。
    • そこの部分が根幹から変わりつつある状況である。
    • 今までは印刷物の世界であって,それを前提にシステムがつくられていたが,今はそうではない。もう図書の時代ではなく,図書以外のメディアもある時代である。
    • 図書以外のメディアを扱うことも求められる時代。コミュニケーションの形式が変わったときに,適切に,必要なときに必要なだけの情報を提供するシステムを作れるか。社会全体の基盤をどう作るかを考えた場合,この領域は発展していく研究領域だと思う。
冨浦先生に対する(1および2の図に対しての)質問(フロア)

Q: 2の設置背景について,多様な媒体とあるが文字情報が比較的意識されていると思う。映像とか画像情報も今では使われているが,こうした文字以外の情報についてはどれほど扱うのか。

(冨浦先生)
文字以外のメディアも重要だと思うが,文字以外の情報を組織化するためにどういう技術があるか,人手でカテゴライズされたタグを使って組織化することになっている。まず,認識があって,記号があって,組織化するということ全てを選任の教員でやることは難しい。記号化された情報のカテゴライズに今は注力したい。将来的にはこうした情報も扱いたい。
(吉田先生)
このリーフレットの裏面にあるように,他の学府の授業科目もとることができるようにしているので,そうした分野の補完をすることも考えている。

Q: 三輪先生は写真に番号がないとおっしゃっていたが,図書館はこれまでNDCに基づいた番号をしてきたはずだが。

(三輪先生)
NDCのような分類は,写真にはない。場所も日付も書いていない。

Q: 倉田先生の話を聞いて考えた。メディアの中で電子書籍がはやってきている。公共図書館の場合は出版社から直接配信する,自宅で図書館を介しない状況がでてきているが,そうした状況になったらどうなるか。何とかしろと言うが,先生の方から現場に不安を与えることはしない方がよいのでは。

(倉田先生)
電子書籍の細かい動きに踊らされる必要はない。いろんな情報が電子化していくことはかわらない。ただし,それは種別によってそのスピードはそれぞれ違ったスピードで進んでいく。理系の論文では95%が電子化され,提供するシステムが作らされている。出版社が図書館を介さないで,全ての知識を保存することができるとは思えないが,今までと同じ形ではダメだと思う。

Q: 高山先生に質問。図書館には司書という資格があり,博物館には学芸員という資格がある。ライブラリーサイエンス専攻と,図書館法上の司書との関連はどうなっていくか。

(高山先生)
現在の職場において,仕事として知的専門職として対応していく能力を保証する資格としては役に立たなくなった。要因としては時代が変わってきた。1950年にできあがった図書館法は単位数や科目の内容が多少変わった程度でほとんど変わっていない。今関係者の間で資格検定試験を行う動きが始まっている。
  • そういえば資格検定試験というものが最近出てきているが,資格試験はナンセンスである*1。資格検定試験をやると,そのためだけを勉強してしまう。ペーパーテストを中心とするところの資格では自殺行為であると考えている。
  • アーカイブズについては資格がない。
  • 知的な専門職を養成するにあたって,九州大学で大学院レベルで専攻を設置したことが重要である。様々な知識背景,職務背景を持った学生に対して教えることが重要である。
    • アーカイブの世界では評価・選別が重要である。非現用文章になったときに保存するか,廃棄するかを選ばなくてはいけない。歴史的価値を見分けるのがプロフェッショナルである。日本には1500万ファイルのうち,100万ファイルが廃棄対象となる。1%のファイルだけが国立公文書館にやってくる。アメリカの場合は2〜3%である。しかし,保存が決まっても提供していいかという問題がある。4月からは国民が利用請求権ができるので難しくなる。

Q: 三輪先生に対して。図書館とは情報を管理する資料の収集および整理保存とともに,提供することこそが重要なのだからそれをもっと重要するべきである。

(三輪先生)
提供という観点は非常に重要だが,アーカイブの場合,どれを残してどれを廃棄するのを選択しなくてはならない。全部を保存するわけにはいかない。そして全てを公開できるわけでもないので,その辺りを踏まえて欲しい。

Q: リーフレット5の養成する人材像および予想される進路として追加できるものはあるのではないか。私からのアイディアとしては2つある。例えば起業家(Googleなどのシステムを作れる応用力豊かに活用できる),Webの資源をまとめてメタデータをつけて再活用できるようにする(Taxonomy)が追加できると思うのだが。

(冨浦先生)
ニーズとして,起業家はなかったが,企業内でマーケティングからのニーズはあった。コンテンツの活用については,今後研究テーマとしてやっていきたいと思っている。
(三輪先生)
是非考えたい。企業の組織を活性化するし,企業全体が活性化すると思う。
(有川先生)
テキストマイニングやWebマイニングはカリキュラムに織り込み済みであるので,十分対応可能だと考えている。

Q:「ユーザーの視点」となにか?もう少し詳細に教えてほしい。

(冨浦先生)
ユーザーがほしい情報がちゃんと手に入るような組織かがなされているか。現在の組織化はユーザーが見たらほしい情報が手にはいるような組織化がなされていない。境界領域の本を探す際にその状況は顕著である。アーカイブズの学問はしっかりしているが,それを学んだ人が職業についていく体制になっていない。

Q: 千差万別なユーザーのニーズをどう明らかにしていくのか。

(吉田先生)
ユーザーがなにを求めているのを聞き出す際には,対人コミュニケーションが挙げられる。私の取り組みとしては,ユーザーがなにを求めているかを探る上でのコミュニケーション論を教えるなかでそうしたニーズを明らかにしていきたい。
(植松先生)
知識再生産の場としての図書館を考えた場合,書架を巡って探すセレンディピティの側面もある。迷わせることも時として教育的なやり方もある。スローライブラリーという発想もある。
(高山先生)
知的創造空間をどうつくるかを考えた場合,それも大切なことである。紙の本が置き換えられていった場合,図書館という空間は必要だが,ここで示されているようなユーザーの視点のずれとは,違う観点から出されているように思う。意志決定者に必要な情報がどのようにでていくか。必要な情報を全部出せといったときに,様々なレポート類が机の上に渦高く積まれても,すぐに判断を出さなければいけない以上役に立たない。そのときにぱっと必要な情報を取り出せるようにすることがアーカイブズの役割だと思う。

Q: ライブラリーサイエンスの概念図について,「ユーザーの視点に立って理論*2を一部削除」とあるが落ちる理論とはズバリなんなのか。

(冨浦先生)
例えば図書館情報学の方であれば,内容に基づく固定的な組織化をやっていくがそれを一生懸命教えるのでなく,どのような分類が適切かを再度検討する。情報科学の方で,自動に大量のデータの組織化を行うということも再度検討したい。削除とあるが力点のバランスを考えるという意味である。

とりあえず,長時間でしたが,かなり内容の濃いシンポジウムだったと思います。個人的な感想をいくつか書いておきたいと思います。

  • 有川総長のリーダーシップが凄い。
    • おそらく,これが今回の新専攻ができた大きな要因だったと思います。今日もわずか10分のコメントのために膨大な資料を用意されていて,図書館についてただ役が回ってきたからやってみたというのではなく,真摯に状況についてリサーチし,経営計画を立てていったという点では正直羨ましいなと思いました。
  • まだまだ手探り?
    • 新専攻の教員は10数名いるとのことですが,範囲が広いこともあって全てをカバーできていないとのことでした。連携が上手くいけばこの辺りは解消されるのでしょうが…
  • でも期待大!
    • ぜひ興味のある方はリーフレットを一度専攻のホームページからダウンロードして頂きたいのですが,授業科目を見ているだけでもワクワクしてきます。今日議論されていたユーザーの視点は現時点では専攻が始まっていないこともあって,十分明らかにされませんでしたが,専攻がスタートしてユーザーのニーズとは何かが明らかにされるなら,既存の図書館情報学,記録管理学へ一石を投じるのではないかと思っています。ともかく今後とも注目していきたいと思います。(終)

追伸:こうしたイベントレポのほぼ全文投稿はそろそろ@min2fly氏に敬意を表して「かたつむる」という言葉が作られても良い頃だと思う。

*1:一応私は関係者なので補足しておきますと,高山先生はLIPER1の提言の時に真っ先に反対意見を表明されていた方です。その後LIPER2のプロジェクトで4-2 LIPER提言についての高山正也氏の批判に答える/根本彰]という記事が出されています。

*2:補足として,図書館情報学情報科学の既存の理論を一部削除とリーフレットには書かれています